【専門解説】生物膜担体の構造と選定基準 ―― 処理効率を左右する設計思想とは

本記事では、現場で実際に選定判断を行う立場の方を想定しています。排水処理や環境設備の現場において、「ろ材」という言葉は日常的に使われています。しかし、その定義を曖昧にしたまま選定を進めると、設計思想の根幹を見誤る可能性があります。

広義に「ろ材」と呼ばれる部材の中には、微生物を担持する生物膜担体だけでなく、特定成分を吸着する材料や、沈殿効率を高める構造材も含まれます。これらは目的も設計思想も本質的に異なります。

本記事では、まず「ろ材」という概念を整理したうえで、浄化槽や排水処理設備の核となる「生物膜担体」に焦点を当て、その構造的特性と選定基準を専門的観点から解説します。

 

 

目次


1. ろ材とは何か:その定義の範囲と目的別の分類

「ろ材」という言葉は、用途別に整理すると大きく4つのカテゴリーに集約されます。現場での議論を正確に進めるためには、まずそれぞれの役割を明確に区別する必要があります。

・生物膜担体
微生物を表面に定着・保持させ、汚水中の有機物や窒素成分を生物学的に分解させる材料です。本記事の中心テーマとなる分野です。

・物理ろ過材
砂や繊維、樹脂構造体などを用い、水中の懸濁物質(SS)を物理的に捕捉・遮断する材料です。主に前処理や高度処理工程で使用されます。

・吸着材
多孔質材料を用い、リン、臭気成分、特定の有害物質などをその微細な空隙に汚れを取り込み、吸着除去します。これは生物反応とは異なる化学的・物理的プロセスによる処理です。

アクセラ

アクセラ

廃ガラスを原料としたポーラス構造材である「アクセラ」は、連通気泡構造を持ち、吸着材や生物脱臭の基盤材として利用されます。生物膜担体とは設計思想が異なり、吸着機能を中心に設計されています。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=418

・沈殿分離材
水流を整え、重力沈降距離を短縮させることで固液分離効率を向上させる構造材です。これは生物反応ではなく、流体制御による分離促進を目的とします。

ハニコーム傾斜管

PVC製ハニコーム傾斜管

PVC製のハニコーム傾斜管は、60°の傾斜構造によって沈殿距離を短縮し、分離効率を高める設計となっています。これは空間制御型の部材であり、生物膜担体とは本質的に異なるカテゴリーに属します。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=419

 

※下水道の仕組み全体における、各工程(沈殿池、反応槽など)の役割については、日本下水道協会の資料も併せて参照すると、より体系的な理解に繋がります。
参考:下水道について(公益社団法人 日本下水道協会)
https://www.jswa.jp/sewage/

2. 生物膜担体の本質:付着・保持・剥離の動的バランス

生物膜担体の役割は、単に微生物を乗せることだけではありません。ここでは、担体が機能するために必要な「微生物との関係性」と「方式の違い」について解説します。

2-1. 「付着」と「保持」の決定的な違い

微生物は担体表面に付着し、生物膜(バイオフィルム)を形成します。担体設計において重要なのは、初期の「付着しやすさ」だけでなく、水流の剪断力(剥ぎ取ろうとする力)に抗して微生物を繋ぎ止める「保持力」のバランスです。このバランスが崩れると、保持力が弱すぎて生物膜が剥がれ落ちてしまったり(過剰剥離)、逆に強すぎて膜が厚くなりすぎ、内部が酸欠状態(嫌気化)になって悪臭を放ったりする原因となります。

2-2. 方式による物理的要求特性の変化

固定床方式: 担体が槽内で静止するため、重要なのは「目詰まりのしにくさ」と、溜まった汚れを洗い流す「逆洗のしやすさ」、そして水が均一に流れるための「流路の確保」です。

 

流動床方式: 曝気によって担体が動くため、水に馴染む比重(1.0前後)であることや、担体同士の衝突に耐えうる摩耗耐性が重視されます。比重が軽すぎれば水面に浮き、重すぎれば底に沈んで動かなくなるため、均一に混ざり合う設計が不可欠です。

 

※各方式のより詳細なメカニズムやメリット・デメリットの比較については、こちらの解説サイトも非常に参考になります。
参考:水浄化フォーラム -科学と技術-(Water Solutions)
http://water-solutions.jp/commentary/bio_reaction/biofilm-reactors/

2-3. 設備条件との整合性

担体は単体で性能が決まるものではありません。曝気量や槽の形状といった設備設計の一部として評価されるべきものです。表面積が大きくても酸素供給が不足すれば、水が淀む「死水域」が生じます。そこでは汚泥が堆積して腐敗したり、本来の処理能力を発揮できなくなったりするため、設備全体の設計バランスが重要です。

 

※生物膜内では、細菌だけでなく、それらを捕食する原虫や後生動物による食物連鎖が形成されています。そのため、生物膜担体は単に“菌を付着させる”部材ではなく、多様な微生物群集が安定共存できる『街』のような環境を提供する役割も担います。
参考:生物膜に出現する微生物とその役割(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/19/5/19_5_278/_article/-char/ja/


3. 構造設計にみる設計思想の具体例

担体の形状には、それぞれ解決すべき課題に対する明確な設計意図があります。代表的な製品を例に、その構造の狙いを解説します。

3-1. 球体構造:MSボール(φ150)

MSボール

中心から三次元的にリブが伸びた複雑な球体構造です。

設計の狙い: 投げ込みによる「ランダム積層」を前提としています。あえて不規則に積み重なることで、規則的な配置に比べて水の通り道が固定されず、水流が常に複雑に変化し続ける状態を作ります。

ここがポイント:水が淀む「死水域」の発生を最小限に抑え、汚泥の堆積を防ぎます。これにより、槽内の全スペースを隅々まで浄化に有効活用できるのが最大の強みです。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=439

3-2. 発泡・機能性担体:キャリアフロンティア

キャリアフロンティア

素材自体を発泡させ、ミクロな凹凸を設けた担体です。

設計の狙い: 表面をプラスに帯電させることで、マイナスの性質を持つ微生物を静電的に引き寄せる特性(静電的吸着)を付与しています。

ここがポイント: 流動床方式の弱点である「初期の微生物の付きにくさ」を解消します。生物膜形成を支援し、立ち上げ期間の短縮に寄与します。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=423

3-3. 絡み合い構造:MGR・MGM

MGRシリーズ

MGRシリーズ(60・70・100・120・150)

チューブ状や紐状の部材が複雑に絡み合った形状です。

設計の狙い: 内部に複雑な隙間を持つ三次元的なネットワークを形成しています。これにより、酸素を供給する「好気処理」から、酸素を制限する「嫌気処理」まで、条件の異なるどちらの環境でも微生物を安定して保持することが可能です。

ここがポイント: 水処理の固定床(ろ床槽)だけでなく、脱臭用の充填材や、魚の住処となる漁礁としても利用されるなど、物理的な構造を活かして幅広い用途に対応できる汎用性の高さが特長です。

URL(MGR):https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=431


4. 使用分野別に見る設計上の留意点

現場の条件が異なれば、担体に求められる役割も変化します。ここでは4つの代表的な分野における留意点を整理します。

4-1. 浄化槽:負荷変動への対応

浄化槽は流入水量の変動が激しいため、担体には「負荷変動を吸収する緩衝機能」が求められます。MSボールのようなランダム層を形成する構造は、偏流を抑制し、急激な流入時でも微生物との接触機会を損なわない効果が期待できます。

 

※浄化槽法に基づく構造基準は、すべての設計のベースとなる信頼性の高い情報です。
参考:浄化槽の構造基準と処理性能(環境省)
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/publicity/pamph/pdf/wts-jp_11.pdf

4-2. 下水処理場:実効表面積の維持と材質の選定

大規模設備では長期運用が前提となるため、カタログ上の初期表面積よりも、経年変化を考慮した「実効的な表面積」を評価する必要があります。物理的ストレスを受け続ける環境では、深層部まで微生物を保持できる構造的耐久性が重要になります。

また、過酷な環境下での長寿命化を図るため、材質の選定もポイントとなります。例えば、ポリプロピレン(PP)製の担体は、優れた耐薬品性に加え、物理的な剛性(硬さ)を備えています。これにより、大量の担体が積み重なる大規模槽でも、重みで潰れることなく安定した流路を確保し続け、長期間にわたって実効表面積を維持することが可能になります。

PPは化学的に安定で、薬品環境下でも材質劣化が起こりにくい点が利点です。目詰まりの発生は、材質だけでなく構造・流路・運転条件に強く依存します。

 

※PPの「接着できない特性」や、それが水処理においてどのように機能するかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
参考:PP(ポリプロピレン)の特性について
https://kansaikako.co.jp/information/info-water/water_blog_17765_pp.html

4-3. 陸上養殖:アンモニア処理の安定化

閉鎖循環型養殖(RAS)では、硝化菌の安定保持が生命線です。増殖速度の遅い硝化菌をいかに早く、確実に定着させるかが立ち上げ段階の大きな課題となります。特にアンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌の保持量は、水質の安定性に直結します。

初期付着を促進する特性を持つ担体は、立ち上げ期間の短縮と処理安定化に寄与します。例えば、表面帯電特性を持つキャリアフロンティアは、微生物の初期付着を促進する設計思想を有しています。

キャリアフロンティア

キャリアフロンティア

表面帯電特性により微生物の初期付着を促進し、立ち上げ期間の短縮に寄与します。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=423

また、流動性と微生物保持性のバランスを重視した設計を持つバイオフロンティアも、陸上養殖分野での使用実績があります。

バイオフロンティア

バイオフロンティア

発泡成型により表面が凸凹しているため微生物が付着しやすくなり、担体内部に繁殖した微生物が剥離しにくい設計思想を持ち、安定運転に寄与します。

URL:https://kansaikako-onlineshop.com/product.php?id=424

担体選定においては、比表面積だけでなく、流動状態・曝気条件・原水負荷との整合を含めた総合的判断が必要です。

陸上養殖は水質管理が非常にシビアなため、このように「菌を呼ぶ力」や「守る構造」が特に重視される分野なのです。

4-4. 脱臭用途:気液接触と圧損のバランス

脱臭設備では、担体の表面に形成された生物膜(微生物の層)に、ニオイ成分を含むガスを効率よく接触させる必要があります。この「気液接触」の効率が、脱臭性能を左右する最大の要因です。

 

  • 留意点:接触効率と通風抵抗のジレンマ
    絡み合い構造(MGR・MGMなど)は、その複雑な形状によってガスを撹拌し、接触面積を最大化できるのが利点です。しかし、構造が密になりすぎたり、水分を保持しすぎたりすると、空気が通りにくくなる「圧損(通気抵抗)」が増大します。圧損が増えると、送風機の負荷(電気代)が上がり、最悪の場合は計画通りの排気風量が確保できなくなります。
  • 設計のポイント:適度な保水性と長寿命化
    生物脱臭では、微生物を活発に働かせるために「適度な湿り気」を維持しなければなりません。一方で、長期間使用すると微生物の死骸などが蓄積し、目詰まりを起こすリスクもあります。そのため、「ガスとしっかり触れ合う構造でありながら、水分や汚れで空気の道が塞がれにくい」という、絶妙なバランスを持った担体選定が不可欠です。

5. 実効比表面積と流路設計の考え方

担体の性能指標として「比表面積(㎡/㎥)」は重要ですが、カタログスペックの数値だけを追うのではなく、運用実態に即した理解が必要です。

5-1. 比表面積の数値と酸素拡散の関係

生物膜が形成されると、その厚みによって酸素拡散が制限されます。水中から供給される酸素には濃度勾配が生じ、条件によっては、酸素到達が膜表層側に偏ることがあります。

そのため、担体設計においては、単に表面積の数値を大きくするだけでなく、酸素が深部まで行き渡る「有効に機能する表面」をいかに維持するかが重要となります。表面積が大きくても、膜が厚くなりすぎて内部が酸欠状態になれば、実質的な処理能力は低下してしまいます。

5-2. 充填率と流路の最適化

担体の充填率は、水の通り道である「流路設計」に直結します。充填率を上げれば微生物の保持量は増えますが、その分だけ水の通り道が狭まり、圧力損失が増大するトレードオフの関係にあります。

過剰な充填は、槽内に水が流れない「死水域」を生む原因となり、結果として全体の処理効率を下げてしまいます。最適解を導き出すには、現場のポンプ能力や曝気強度との兼ね合いを考慮し、酸素と汚水がすべての担体に均一に供給される「余裕を持った流路設計」が必要です。


6. 劣化と更新:実務的視点からの管理

担体は長期間の使用を前提とした部材ですが、現場では物理的な摩耗や構造の変化が徐々に進行します。突発的なトラブルを防ぐためには、経年変化を捉えた「予防保全」の視点が不可欠です。

6-1. 性能低下の兆候

担体の劣化や機能低下は、以下のようなサインとして現れます。これらは急激に起こるものではないため、数年単位のトレンドで把握し、計画的に保全を行うことが推奨されます。

  • 担体の摩耗と流出:長年の流動(ぶつかり合い)により担体が削れ、破片がスクリーンを通り抜けて流出することがあります。
  • 固定床における内部閉塞と水位上昇:担体内部で汚泥が過剰に蓄積して固形化(閉塞)すると、水の通り道が塞がれます。これにより槽内の「圧損」が高まり、水位の上昇や処理効率の低下を招きます。
  • 処理能力の緩やかな低下:BODや窒素の除去率が、以前と比較して緩やかに、かつ継続的に低下している場合は、微生物層の更新がうまくいっていない可能性があります。

6-2. 更新の判断基準

担体の更新は、必ずしも「全入れ替え」だけではありません。運用コストを最適化するために、以下の基準で判断を行います。

  • 部分補充と全面交換: 物理的な摩耗によって容量が減少した場合は、不足分を「部分補充」することで機能を回復できるケースが多くあります。
  • 定期的な「引き上げ調査」の重要性: 耐用年数は運転負荷や水質に大きく依存するため、「一律○年」という期間設定は困難です。定期的に担体の一部を引き上げ、物理的な強度(割れ・脆化がないか)や、内部の汚泥が洗浄によってリセットできる状態かを確認することが、最適な更新時期を見極める唯一の方法です。

7. ろ材選定でよくある誤解

専門的な現場であっても、担体の選定において陥りがちなポイントがいくつかあります。導入後のトラブルを防ぐためにも、以下の視点を再確認することが重要です。

7-1. 比表面積の数値のみで判断する

「比表面積が大きい=処理能力が高い」と考えるのは、最も一般的な誤解の一つです。実際には、微生物の膜が厚くなれば酸素が届かない領域が生まれます。数値上の広さだけでなく、目詰まりのリスクや酸素の供給効率を含めた「実効表面積」で総合的に判断する必要があります。

7-2. 初期コスト(導入費用)のみで選定する

導入時の安さだけで選ぶと、後に大きな損失を招くことがあります。耐久性が低ければ数年での「更新費用」が発生し、圧損が高い担体は日々の「電気代」を押し上げます。メンテナンスや更新頻度を含めたトータルコスト(LCC:ライフサイクルコスト)で見れば、高機能な担体の方が結果として経済的になるケースが多々あります。

7-3. 万能な担体を求める

「これを入れればどんな現場でも解決する」という万能な担体は存在しません。原水の水質や負荷変動、既存設備のポンプ能力によって最適解は異なります。現場の条件に合わせて柔軟に選定を行うことが、長期安定稼働への近道です。


8. まとめ

ろ材、特に生物膜担体は、排水処理の安定性を支える重要な要素です。その選定は、単なるスペックの比較ではなく、素材の特性と現場の設備条件を掛け合わせて最適解を導き出すプロセスに他なりません。

現場ごとに条件は異なり、既製品だけでは対応しきれないケースも多々あります。私たちは、これまでの経験に基づき、部品や管理用具を含めた柔軟なご提案を続けてきました。図面がない状態からのご相談でも、最適な解決策を共に考えてまいります。

生物膜担体は、「構造 × 使用環境 × 設備条件」の調和があって初めて、その真価を発揮するのです。


参考文献一覧

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