FRPという素材をご存じでしょうか。
名前だけ聞くと少し専門的ですが、水まわりの製品や屋外設備など、実は身近な場所でも使われている素材です。
一方で、FRPは塩ビパイプのように、一般の方が日常的なDIYで気軽に扱う素材とは少し違います。
DIYが好きな方でも、実際にFRPを扱った経験がある方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、FRPの基本、作り方、水処理設備で使われる理由、補修時の注意点、既存設備に合わせた製作・補修まで解説します。
目次
1. FRPとは何か
1-1. FRPは繊維強化プラスチックのこと
FRPとは、Fiber Reinforced Plastics の略で、日本語では「繊維強化プラスチック」と呼ばれます。
樹脂にガラス繊維などを組み合わせ、強度を高めた複合材料です。
FRPは、樹脂と繊維がそれぞれ違う役割を持っています。
樹脂は形を作り、水や薬品から内部を守ります。
ガラス繊維などの繊維は、引っ張りや曲げに対する強さを補います。
イメージとしては、鉄筋コンクリートに近い考え方です。
コンクリートだけでは弱い部分を鉄筋で補うように、FRPは樹脂だけでは弱い部分を繊維で補強します。
そのため、FRPはプラスチックの中でも、かなり頑丈な部類に入る素材です。
1-2. 身近な製品にも使われている
FRPは、軽さ、強さ、水への強さ、形の作りやすさが必要な製品に使われます。代表的な例が、浴槽、貯水槽、ボート、ヘルメット、車やバイクの外装部品、屋外設備のカバーです。
普段は素材名まで意識することは少ないですが、FRPは水まわりや屋外製品、設備部品の中で広く使われています。
【参考】
旭化成プラスチックス「FRP(繊維強化プラスチック)とは」
https://www.asahi-kasei-plastics.com/column/14/
2. FRPはどのように作られるのか
2-1. ガラス繊維に樹脂を含ませて固める
FRPは、不織布のようなガラス繊維に液状の樹脂を染みこませ、硬化させて形を作ります。
ガラス繊維は布のように柔らかく、隙間の多い素材です。そこに樹脂が入り込むことで、ガラス繊維と樹脂が一体化し、複雑な形でも強度を保って作ることができます。
樹脂だけでは弱い部分をガラス繊維が補うため、FRPは軽いのに丈夫という特徴を持っています。作りたいものに合わせてガラス繊維と樹脂を何層も重ねることで、厚みや頑丈さを調整できます。
2-2. 型をもとに形を作る
柔らかいガラス繊維を目的の形にするためには、原型や型が必要です。
まず作りたい形に合わせて型を用意し、その型にガラス繊維を沿わせ、そこに液状の樹脂を含ませて硬化させることで、型に沿った形のFRPを作ります。
型の内側にFRPを重ねるか、外側にFRPを重ねるかは、目的によって異なります。
例えば浴槽では、型に接する面が浴槽の内側になります。人が触れる面や水を受ける面をなめらかに仕上げるため、型の形がそのまま表面の仕上がりに影響します。一方、タンクや槽では、内側の容量や形を基準にして型を考えることがあります。
型を使うことで、蓋、カバー、槽、タンクのような大きな形や、曲面・段差など、複雑な形にも対応できます。水を扱う設備では、一体で成形することで継ぎ目を減らせます。継ぎ目が少ない構造は、漏水や接合部の傷みを抑えるうえでも有利です。
2-3. 手作業の工程と品質の差
FRPの成形方法にはいくつかの種類があります。
代表的な方法が「ハンドレイアップ成形」です。型にガラス繊維を重ね、刷毛やローラーで液状の樹脂を含ませ、空気を抜きながら硬化させる方法です。人の手で材料を重ね、樹脂を含ませていくため、手作業の割合が大きい成形方法です。
ほかにも、樹脂と短く切ったガラス繊維を吹き付けるスプレーアップ成形、型を閉じて樹脂を流し込むRTM成形、同じ断面の部材を連続して作る引抜成形などがあります。製品の形、大きさ、数量、必要な強度によって、適した成形方法は変わります。
槽、カバー、覆蓋、少量品、特注品では、今でもハンドレイアップ成形のような手作業の工程が多く残っています。FRPは、作り方で仕上がりが変わります。積層の仕方、脱泡、厚み、補強の入れ方が品質に直結します。
ガラス繊維の間に気泡が残ると、強度不足や剥離の原因になります。そのため、ローラー等で空気を抜く「脱泡」は重要な工程です。材料名が同じFRPでも、作り方が悪ければ十分な強度は出せません。
【参考】
株式会社特殊阿部製版所「ハンドレイアップ成型について」
https://tokumo-r.co.jp/handlayup/
2-4. 樹脂の種類で性能が変わる
FRPは、使う樹脂の種類によって、耐水性、耐薬品性、強度、屋外での耐久性など性能が変わります。
一般的なFRP製品では、「不飽和ポリエステル樹脂」がよく使われます。FRP成形で広く使われている代表的な樹脂で、人工大理石や補修用パテなどにも使われます。
薬品や腐食の影響を受けやすい場所では、「ビニルエステル樹脂」が使われます。耐薬品性を高めたい場合に使われる樹脂です。
エポキシ樹脂は、強度や接着性を重視する用途で使われます。接着剤や補修材で名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
FRPの性能は、樹脂の種類、厚み、補強、表面処理で決まります。水処理設備や排水処理施設では、水、薬品、温度、屋外環境、荷重などに合わせて仕様を決めます。
【参考】
FRP Material Selection Guide
https://kh.aquaenergyexpo.com/wp-content/uploads/2022/11/FRP-Material-Selection-Guide.pdf
3. FRPの基本特性
3-1. 軽くて強く、不透明
金属は強度が高い反面、部品が大きくなるほど重くなります。水処理設備の点検口に使う蓋、槽の上に置く覆蓋、屋外設備を保護する大型カバーでは、重さがそのまま開閉時の作業負担になります。
一般的な樹脂板は軽く扱いやすい素材ですが、大きな面に使うと、たわみや変形が問題になります。FRPはガラス繊維で補強されているため、大きな形でも軽さと強さを両立できます。
このため、FRPは覆蓋、大型カバー、槽、タンク、ボートのような大きな製品に使われます。
また、ガラス繊維が不織布のようになっているため、FRPにはほとんど透明性がありません。透明性を重視するなら、アクリルや透明塩ビを使用するほうが適切です。
3-2. 水まわりで使いやすい
FRPは、ガラス繊維と樹脂でできた素材です。金属ではないため、鉄のような赤サビは発生しません。
水や湿気にさらされる場所では、金属部品のサビや腐食が管理上の課題になります。FRPは、サビを避けたい水まわりや湿気の多い場所で使いやすい素材です。
ただし、FRPは使用条件によって劣化が発生します。紫外線、熱、薬品、荷重、摩耗の影響を受けます。特にアセトンなどの有機溶剤はFRPを傷める原因になるため、使用環境に合わせた樹脂、厚み、表面処理、点検が必要です。
3-3. 表面劣化と表面保護に注意する
FRPは屋外でも使われます。特に屋外では紫外線や雨風の影響を受け、表面の樹脂や塗装が劣化しやすいです。室内でも、薬品、熱、摩耗などの条件によって劣化は発生します。
表面が白っぽく粉をふいたようになる現象を「チョーキング現象(白亜化)」と呼び、これは表面保護が弱ってきたサインです。劣化が進むと、色あせ、ツヤ引け、ひび割れ、ガラス繊維の露出につながります。
屋外で使うFRP部品では、製作時や施工時にゲルコートやトップコートで表面を保護します。使用年数が長くなれば、点検、清掃、再塗装が必要です。再塗装は、汚れや粉化した表面を落とし、乾燥や研磨などの下地処理をしたうえで行います。



【参考】
KTA「Surface Preparation and Coatings for FRP」
https://kta.com/surface-preparation-coatings-frp/
MDPI Polymers「Deterioration of Basic Properties of the Materials in FRP Strengthening Systems Exposed to Ultraviolet Radiation」
https://www.mdpi.com/2073-4360/9/9/402
4. 水処理設備・浄化槽でFRPが使われる理由
4-1. 槽・タンク・カバー・覆蓋で使われる
排水処理や浄化槽の分野では、FRPは槽、タンク、カバー、覆蓋などで使われます。
これらの部品は、水、湿気、腐食性ガス、屋外環境の影響を受けます。さらに、点検や清掃のために開閉しやすいことも重要です。
FRPは、腐食対策、軽量化、現場寸法への対応が求められる設備部品に使われます。
FRP計量槽(FKB-1型・FKB-2型)
FRPで製作した汚泥(水)計量槽です。水槽内で仕切りを設け、安定した移送と返送ができる計量槽となっています。
FRPタンク
FRP(繊維強化プラスチック)製のタンクです。扱う薬品に応じて、樹脂グレード(一般・中耐蝕・高耐蝕)を選定できます。
ボルト組立式パネルタンク(HP型/HPS型)
一枚一枚パネルを組み立てることで作られるタンクです。運搬の困難な場所での設置や非常に大きなタンクも現場で組み立てることができます。
4-2. 薬品・湿気・腐食性ガスへの対応
排水処理や水処理の現場では、水だけでなく、酸、アルカリ、薬品、硫化水素などの腐食性ガスが関係します。こうした環境では、金属が腐食し、塗装も傷みます。
FRPは、樹脂の種類を選ぶことで、腐食しやすい環境にも対応しやすくなります。一般用途なら不飽和ポリエステル樹脂、薬品や腐食環境を重視するならビニルエステル樹脂など、使用条件に合わせた選定が必要です。
大切なのは、「FRPだから薬品に強い」とまとめて考えないことです。耐えられる薬品、濃度、温度、接触時間は樹脂で変わります。薬品が関係する設備では、使用条件を確認してから仕様を決めるのがよいでしょう。
4-3. 金属製の蓋やカバーから置き換えるケース
施設管理の現場では、古い金属製の蓋やカバーがそのまま使われている設備があります。
金属製の蓋は強度がありますが、長年使ううちに、重さ、サビ、開閉のしにくさ、防錆塗装の手間が課題になります。特に、日常点検で何度も開け閉めする蓋では、重量が作業者の負担になります。
FRP製に置き換えることで、軽量化や開閉作業の負担軽減につながります。点検、清掃、部品交換がしやすくなり、日常管理のしやすさも向上します。サビによる劣化を抑えやすいため、防錆管理の手間を減らしたい設備でも選択肢になります。
ただし、車両が乗る場所や、人が頻繁に歩く場所では、軽量化だけを優先できません。設置場所の使われ方に合わせて、必要な強度や補強を確認しておくと安心です。
FFRP
各種浄化槽、下水処理施設、集落排水施設、浄水場および上水施設の覆蓋。耐食性を必要とする床、歩道用の床板などの用途に用いられます。
5. FRPと他素材の使い分け
FRPの特徴は、他の素材と比べると分かりやすくなります。
水処理設備や排水処理施設では、FRP以外にも塩ビ、PP、PE、アクリル、SS、SUSなどが使われます。どの素材がよいかは、部品の役割や設置環境によって変わります。
| 比較素材 | 主な特徴 | よく使われる場所 | FRPが向く場面 |
| 塩ビ(PVC) | 軽くて安価。配管や継手の規格が豊富で、接着もしやすい。 | 配管、継手、小型の水まわり部品、透明塩ビの点検窓など。 | 大きな槽、覆蓋、大型カバーのように、強度や一体成形が必要な部品。 |
| PP(ポリプロピレン) | 軽量で、薬品に強い種類が多い。接着は難しく、溶着などで加工する。 | 薬品タンク、薬品に触れる部品、樹脂製の加工品など。 | 大きな面でたわみを抑えたい部品、補強を入れて強度を持たせたい部品。 |
| PE(ポリエチレン) | 軽量で、耐薬品性や耐水性に優れている。柔らかさや粘りもある。 | 薬品タンク、水槽、容器、配管部品、樹脂製の加工品など。 | 大きな蓋やカバー、槽のように、形を保つ強さや補強が必要な部品。 |
| アクリル | 透明性が高く、見た目がきれい。硬い反面、割れやすさがある。 | 点検窓、表示カバー、水槽、展示ケースなど、中を見せる用途。 | 透明性よりも、強度、耐久性、大きな形を重視する用途。 |
| SS(普通鋼) | 強度が高く、材料費を抑えやすい。切断や溶接もしやすい。 | 架台、骨組み、金属製の蓋、カバー、機械まわりの部材など。 | SSより軽くしたい部品、赤サビを避けたい水まわりの部品。 |
| SUS(ステンレス) | 耐食性が高く、強度もある。重量とコストは高くなりやすい。 | 衛生面や強度を重視する設備、金属部品、架台、カバーなど。 | SUSより軽くしたい大型の覆蓋やカバー、コストを抑えたい耐食部品。 |
素材を選ぶときは、耐食性、重量、強度、加工性、価格、メンテナンス性で判断します。
FRPの軽くて丈夫という特性は、点検や維持管理が必要な水処理設備では大きなメリットになります。
一方で、FRPには向かない用途もあります。成形時にわずかな収縮があるため、金属加工品のような高い寸法精度を求める機械部品には適しません。
また、FRPは基本的に完成形を決めて作る素材です。現場で切削や穴あけを行うと、強度低下や水の侵入につながることがあります。後から現場で細かく加工して合わせるよりも、用途、荷重、設置条件を事前に確認したうえで製作する方が向いています。
6. FRPの補修・DIYで注意すべき点
6-1. 一般家庭でFRPを扱う際の注意点
ホームセンターや通販では、FRP補修キットが販売されています。ひび割れ、欠け、穴あき、表面の劣化などの補修に、一般家庭で使われることもあります。
ただし、FRP補修では液状の樹脂や硬化剤、ガラス繊維を扱います。樹脂はにおいがあり、肌に付着しないよう注意が必要です。作業時は換気を行い、手袋や保護具を使って扱います。
また、ガラス繊維は細かな欠片や粉じんが出ることがあります。小さな子どもやペットがいる家庭では、作業場所や片付けにも注意が必要です。FRPは補修できる素材ですが、作業環境には気をつけなければなりません。
6-2. 補修は下地処理で仕上がりが変わる
FRPの補修では、樹脂を塗る前の下地処理が重要です。
古いFRPの上から補修する場合、汚れ、油分、古い塗膜、粉化した表面を落とし、樹脂が密着しやすい状態に整えます。下地処理が不十分だと、補修部分は後から剥がれます。
また、樹脂と硬化剤の比率、作業時の温度、気泡の抜き方も仕上がりに影響します。気泡が残ると強度不足や剥離の原因になるため、脱泡は重要な工程です。
6-3. 表面だけ直しても強度は戻らない
FRPは、表面をきれいに直しても、内部の強度まで戻ったとは限りません。
ひび割れをパテで埋めたり、塗装をし直したりすれば、外観は整います。しかし、内部でガラス繊維が切れている場合や、層の間で剥がれが起きている場合は、表面だけでは判断できません。
槽の覆蓋、点検口の蓋、大型カバー、タンク、歩行用の床板では、見た目よりも強度の確認が重要です。補修の目的が外観、防水、強度回復のどれなのかを整理してから作業を判断します。
7. 既存設備に合わせてFRP部品を製作・補修する
7-1. 既存設備は現場ごとに寸法や形状が異なる
水処理設備や排水処理施設では、槽、覆蓋、点検口、機械まわりのカバーなどの寸法や形状が現場ごとに異なります。
現在のように部品や施工方法が標準化される前に作られた設備では、各現場の条件に合わせて製作された部品が今も残っています。そのため、同じように見える槽や蓋でも、現在の既製品ではそのまま使えないこともあります。
FRPは型や原型をもとに形を作る素材なので、このような過去の部品も、現場の寸法や障害物の位置に合わせて製作しやすいのです。
7-2. 図面がなくても現物から製作・補修を検討できる
図面が残っていない場合でも、現在使っている現物の寸法、設置場所、使用目的、必要な強度、開閉の有無、荷重条件を確認すれば、新しい部品の製作を検討できます。
槽、覆蓋、カバー、保護部品のように、既製品では隙間が出るもの、うまく収まらないものでは、現物や現場状況をもとにした特注製作が有効です。また、既存設備の状態によっては、新しく作るだけでなく、FRPライニングや部分補修を検討する場合もあります。
FRPライニング
FRPを使用するライニング工事。現場作業の他、製缶品にもライニング可能。
ただし、既存設備に合わせて部品を作る場合でも、すべてをFRPにする必要はありません。設置環境、荷重、薬品、コスト、加工方法によっては、SS、SUS、塩ビ、PP、PEの方が適していることもあります。
大切なのは、何を軽くしたいのか、どこが腐食しているのか、どの寸法が合わないのか、どの作業が負担なのかといった、現場の困りごとを先に整理することです。
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参考文献
- 旭化成プラスチックス「FRP(繊維強化プラスチック)とは」
https://www.asahi-kasei-plastics.com/column/14/ - 株式会社特殊阿部製版所「ハンドレイアップ成型について」
https://tokumo-r.co.jp/handlayup/ - FRP Material Selection Guide
https://kh.aquaenergyexpo.com/wp-content/uploads/2022/11/FRP-Material-Selection-Guide.pdf - KTA「Surface Preparation and Coatings for FRP」
https://kta.com/surface-preparation-coatings-frp/ - MDPI Polymers「Deterioration of Basic Properties of the Materials in FRP Strengthening Systems Exposed to Ultraviolet Radiation」
https://www.mdpi.com/2073-4360/9/9/402
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